古くから伝わる日本の行事に、五節句というものがあります。一月七日の『七種粥【ななくさがゆ】』、三月三日の『桃の節句』、五月五日の『端午の節句』、七月の七日の『七夕』、九月九日の『重陽【ちょうよう】の節句』を指します。どれも、お隣の中国から伝わった行事です。
七種粥から七夕までは、現在も親しまれていますね。けれども、重陽の節句は、ほとんど忘れ去られています。かつての中国では、長寿を願う節句として重視されました。
重陽の節句は、菊の節句とも呼ばれます。昔の中国の暦では、ちょうどこの頃に、菊が咲くからです。昔の中国人は、菊に長寿の作用があると信じました。重陽の節句には、菊の花を漬けたお酒を飲むなどして、長寿を願ったといいます。
この信仰が、日本にも伝わりました。菊の栽培品種も、もともと日本にはなく、中国から伝わったといわれます。今の菊は、日本人好みに品種改良されています。
秋、野山にも、野生のキク科植物が花開きます。日本在来の野生種にも、美しいものが多いです。ノコンギク、ハマギク、ユウガギク、リュウノウギクなどです。
日本のキクが、栽培品種にされなかったわけではありません。小菊と呼ばれる品種グループは、日本のリュウノウギクなどから作られたとされます。ノコンギクからは、コンギク(紺菊)という栽培品種が作られました。もとより美しいハマギク(浜菊)は、古来、そのまま栽培されてきました。
逆に、栽培種だったのに、野生化したキク科植物もあります。シオン(紫苑)はその一種です。日本が歴史時代になる前、中国か朝鮮半島から渡来したと考えられています。
信じられたとおり、キクには長寿の作用があるのでしょうか? キク科には、シオンやリュウノウギクのように、薬効成分を持つ種があります。シオンなどの栽培種は、最初は薬草として導入されたようです。長寿伝説は、全くの嘘ではないでしょう。
伊藤左千夫の小説『野菊の墓』に登場する「野菊」は、ノコンギクだといわれます。野菊の野生美を、うまく生かした作品ですね。菊の節句に際して、華やかな栽培種だけでなく、素朴な野生種も大切にしたいと思います。
九月九日は菊の節句
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