カタクリ(片栗)は、古代から、日本人に愛されていますね。万葉集にある「堅香子【かたかご】」という草が、カタクリだとされます。現在も、カタクリを、「カタガッコウ」や「カタカンコ」などと呼ぶ方言があります。
カタクリの花期は、巧妙に、調節されています。ピンポイントで、良い時期に咲きます。
寒すぎる時期には、花は咲きません。花粉を運ぶ虫が、来てくれないからです。花粉の運び手がいないのでは、花が咲く意味がありませんね。
かといって、完全に暖かくなるまで待つのも、まずいです。樹木の葉が、伸びてくるからです。葉が伸びれば、地面にまで、日光が届きません。暗い林の地面では、花が目立ちませんね。小さな草は、不利になってしまいます。
花だけではありません。カタクリの種子にも、工夫があります。
カタクリの種子には、エライオソームと呼ばれる物質が付いています。種子の「種枕【しゅちん】」、「付属体」などと呼ばれる部分に、エライオソームがあります。この物質には、脂肪酸【しぼうさん】や糖【とう】などの栄養が、たっぷり含まれています。
何のために、こんな物が、付いているのでしょうか? アリ(蟻)を呼ぶためです。
アリは、エライオソームにつられて、種子を運びます。エライオソームを食べた後、巣の近くに、種子を捨てます。遠くまで種子を運んでもらえば、分布を広げることができますね。「お弁当をあげるから、荷物を運んで」と、頼んでいるようなものです。
このような植物を「アリ散布型植物」といいます。カタクリ以外にも、アリ散布型植物は、多くあります。アオイスミレ、クサノオウ、ジロボウエンゴサク、ホトケノザ、ミヤマエンレイソウなどです。面白いことに、これらの種は、近縁とは限りません。
「カタクリのエライオソームは、アリを惹きつける物質だ」という説もあります。アリは、カタクリの種子を、仲間の幼虫や蛹【さなぎ】だと思って、運ぶ、というのです。
この説は、まだ、実証されていません。もし、このとおりだとしたら、素晴らしい工夫ですね。可憐なカタクリは、したたかな戦略家といえるでしょう。
過去の記事でも、カタクリと同じ「春植物」を取り上げています。春先のほんの一時に、急いで花が咲く植物です。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
イチリンソウは日本のアネモネ(2007/03/23)
サンフラワー(2007/02/07)
黄金の花には意味がある、福寿草(フクジュソウ)(2006/2/20)
などです。
図鑑には、カタクリが掲載されています。また、他のアリ散布型植物や、昆虫のアリも載っています。ぜひご利用下さい。
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