2010年1月アーカイブ
寒い日が続きますね。今回は、寒さしのぎに、暖かいところの植物の話をしましょう。ヤシ科の植物です。ヤシ(椰子)といえば、反射的に、南の国が思い浮かびますね。
ヤシ科の種には、圧倒的に、熱帯のものが多いです。温帯に分布するのは、ほんの少しです。日本の本土に分布するヤシは、シュロ(ワジュロ)と、ビロウくらいです。
ビロウ(蒲葵)は、日本では、四国南部から九州、南西諸島にかけて分布します。これら以北の地でも、観賞用に植えられることがあります。
紛らわしいことに、ビンロウジュ(檳榔樹)というヤシの一種もあります。ビンロウ(檳榔)とも呼ばれる種です。ビロウと、ビンロウとは、まったくの別種です。ビンロウジュのほうは、日本の本土には分布しません。ビロウより、寒さに弱いからです。
なぜ、こんな紛らわしい名前が付いたのでしょうか? 起源は、奈良時代以前にさかのぼります。その頃、ビロウ―ビンロウジュではありません―は、「あぢまさ」と呼ばれていました。古事記や風土記に、「あぢまさ」の名が登場します。
古代の日本人は、「あぢまさ」に漢字名を当てる時、間違えて「檳榔」を当ててしまいました。「檳榔」は、ビンロウジュのほうを指す名なのに、です。
平安時代くらいになると、「あぢまさ」を、「びろう」とか「びんろう」などと呼ぶようになります。「檳榔」の読みに引きずられたからでしょう。
やがて、本物のビンロウジュ(檳榔樹)が、日本で知られました。その時に、漢字名をそのまま読んだ「ビンロウ」という名を、日本語名にしてしまいました。かくして、同じヤシ科に、紛らわしい種名ができたわけです。
平安時代以前の文書に、「檳榔」が登場したら、それは、まず間違いなく、ビロウを指します。ビンロウジュではありません。現在では、ビロウの漢字名は、「蒲葵」とされることが多いです。「蒲葵」は、正しくビロウを指す漢字名とされます。
日本の本土では、ヤシ科の植物に、あまり馴染みがありません。そのために、ヤシ科の種が、混同される傾向があります。ヤシ科の種名には、要注意ですね。
図鑑には、ビロウが(ビンロウジュではありません)掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、種名が紛らわしい植物同士を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
桐油は、キリ(桐)からは採れない?(2009/07/10)
センダン(栴檀)とは、どんな植物?(2009/05/04)
五月五日は、あやめの節句?(2007/4/30)
などです。
シジュウカラ 画像
和名:シジュウカラ
学名:Parus major
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東京都 新宿区【2010.01.20】
図鑑には、シジュウカラが掲載されています。ぜひご利用下さい。
ダイサギ 画像
和名:ダイサギ
学名:Tachybaptus ruficollis
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東京都 新宿区【2010.01.20】
図鑑には、ダイサギが掲載されています。ぜひご利用下さい。
ふぐ料理が美味しい季節ですね。日本人は、昔からフグを食べてきました。毒があるとわかっているのに、です。フグには、すべて、毒があるのでしょうか?
この答えは、フグの定義によって、違ってきます。フグ目【もく】フグ科に属する種は、ほとんどが、何らかの形で、毒を持つようです。
フグ目でも、フグ科以外に属する種には、毒がないものが多いです。例えば、ハリセンボン科や、マンボウ科―マンボウもフグ目です―の種には、毒はありません。
ハリセンボン(針千本)という名は、よく知られますね。名に反して、ハリセンボンには、千本の針はありません。せいぜい、四百本くらいだそうです。
ハリセンボンとは、フグ目ハリセンボン科に属する種の総称です。この仲間の外見は、普通のフグに似ます。ただし、それは、膨らんでいない状態の時です。膨らむと、「いがぐり」のように、棘だらけになります。
この棘が、ハリセンボンが毒を持たない理由でしょう。棘で防御していれば、毒を持つ必要はありませんね。興味深いことに、マンボウも、幼魚のうちは棘を持ちます。マンボウの場合、成魚は非常に大きいので、棘で身を守る必要がないのでしょう。
どうせなら、ハリセンボンは、棘に加えて毒もあれば、もっと強そうですよね。フグの仲間なのに、なぜ、そうならなかったのでしょう? それは、自然界には、「なるべく無駄なことをしない」という法則が働くからです。
棘を作ったり、毒を持ったりするには、エネルギーがかかります。防御手段を持ちすぎると、敵にやられなくても、食べ物が足りなくて、死んでしまうかも知れません。このために、「棘と毒」のような、何重もの防御手段を持つ種は、少ないです。
ところが、ハリセンボンには、棘が利かない敵がいます。そう、ヒトですね。
沖縄などの地方では、ハリセンボンを食べます。棘だらけの皮をむけば、美味しく食べられます。旬【しゅん】は、フグと同じく、冬だそうです。
ハリセンボンが、ヒトに対抗するには、進化の時間が足りなかったようですね。
図鑑には、ハリセンボン科の一種ヒトヅラハリセンボンが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、フグ目【もく】に属する種(マンボウ)を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
「翻車魚」と書くのは、どんな魚?(2009/07/13)
ミツマタ 画像
和名:ミツマタ
学名:Edgeworthia chrysantha Lindl.
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東京都 新宿区【2010.01.20】
図鑑には、ミツマタが掲載されています。ぜひご利用下さい。
キンクロハジロ 画像
和名:キンクロハジロ
学名:Aythya fuligula
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東京都 新宿区【2010.01.20】
図鑑には、キンクロハジロが掲載されています。ぜひご利用下さい。
今回は、とてもかわいい生き物を紹介しましょう。イイズナです。哺乳類の一種です。日本では、東北地方の一部と、北海道に分布します。
イイズナのかわいさは、まず、体が小さいことにあります。全長が、20cmほどしかありません。ハツカネズミと、あまり変わらない大きさです。ただ、胴が長い体型のため、ハツカネズミよりは大きく見えます。ネズミは、尾が長いですからね。
つぶらな瞳の顔も、かわいいです。最近、ペットとして人気の、フェレットに似ます。
イイズナの体色は、夏と冬とで違います。夏は、背が茶色で、腹が白です。冬は、全身、白くなります。この体色も、かわいさを増しています。
こんなにかわいいイイズナは、何を食べるのでしょう? じつは、彼らは肉食です。自分と同じくらいの大きさの、野ネズミなどを襲って食べます。すばしこいため、小鳥さえ、捕らえることができます。見た目に似合わない獰猛【どうもう】さです。
イイズナは、日本だけでなく、ユーラシア大陸と、北米に、広く分布します。食肉目【しょくにくもく】イタチ科に属します。最小のイタチ、といえるでしょう。イタチ科どころか、肉食性の哺乳類の中で、最小だといわれます。つまり、世界最小の肉食獣です。
イイズナと似たものに、オコジョがいます。オコジョも、イタチ科の肉食獣です。夏と冬で、体色が変わるのも、同じです。けれども、オコジョとイイズナとは、別種です。
日本のイイズナは、数が少ないです。特に、本州のイイズナは、絶滅のおそれがあります。加えて、体が小さいため、目撃するのは難しいです。このためか、昔の日本では、謎めいた生き物とされたようです。妖怪のように見られたこともありました。
外見と性質とのギャップが、イイズナを「妖怪」に見せたのかも知れません。もちろん、実在のイイズナは、小さいだけで、普通の肉食獣です。妖怪ではありません(笑)
イイズナは、比較的、寒いところに棲みます。現在の日本のように、高温化の傾向があるところでは、棲みにくいでしょう。高温化の責任が、人間にあるとすれば、イイズナの未来も、人間にかかっています。日本のイイズナを、滅ぼしたくありませんね。
図鑑には、イイズナが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、イイズナと同じく、イタチ科の哺乳類を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
冬に黄色くなる? テン(貂)の謎(2008/12/15)
白貂【しろてん】の正体はオコジョ?(2008/02/01)
シメ 画像
和名:シメ
学名:Coccothraustes coccothraustes
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東京都 新宿区【2010.01.20】
図鑑には、シメが掲載されています。ぜひご利用下さい。
マガモ 画像
和名:マガモ
学名:Anas platyrhynchos
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沖縄県 恩納村【2010.01.17】
図鑑には、マガモが掲載されています。ぜひご利用下さい。
プラナリアという生き物を、御存知ですか? 水中に棲む生き物です。小さくて、平たい体をしています。大きさは2cmくらいしかありません。
「それなら、教科書で見たよ」という方が、多いのではないでしょうか? たいていの生物の教科書には、プラナリアが載ります。実験動物として、よく使われるからです。
プラナリアには、驚異的な再生能力があります。一頭のプラナリアを半分に切っても、死にません。半分ずつが、それぞれ完全な一個体にまで再生します。
実験に使われる理由は、再生能力の高さばかりではありません。他に、いくつもの理由があります。なかで注目すべきは、「脳」を持つことです。
脊椎動物【せきついどうぶつ】は、みな、脳を持ちますね。ヒトや、ニワトリ、トカゲ、カエル、サメ、マグロなどです。けれども、動物全体を見ると、「脳」を持つものは、限られます。例えば、クラゲや、カイメン(海綿)は、脳を持ちません。
動物が、進化のどの段階から「脳」を持ったのかは重要な問題です。これを調べるには、動物の中で、最初に「脳」を持ったものがどれか知る必要があります。
プラナリアには、かろうじて「脳」と呼べそうなものがあります。プラナリアの仲間を調べれば、「脳」の起源について得ることがあるでしょう。
プラナリアの仲間とは、扁形動物門【へんけいどうぶつもん】渦虫綱【うずむしこう】三岐腸目【さんきちょうもく】というグループのことです(分類には、異論があります)。
じつは、プラナリアとは、一種の動物だけを指す言葉ではありません。前記のグループ全体を指します。一般的には、このグループ内のナミウズムシという種を指すことが多いです。実験動物にされるのも、教科書に載るのも、多くはナミウズムシです。
プラナリアは、理科の教科書に載るだけとは限りません。ひょっとすると、美術の教科書で、会えるかも知れません。彼らは、ある絵画で立派にモデルを務めています。
その絵画は、M.C.エッシャーという画家が描いたものです。『偏平虫類』とか『扁虫たち』などと訳される題です。とてもかわいいですよ。ぜひ、画集などで見てみて下さい。
図鑑には、プラナリア(ナミウズムシ)が掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、プラナリアと近縁な生き物(扁形動物【へんけいどうぶつ】)を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
梅雨時のエイリアン? コウガイビル(笄蛭)(2008/05/30)
オオバン 画像
和名:オオバン
学名:Fulica atra
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沖縄県 豊見城【2009.12.19】
図鑑には、オオバンが掲載されています。ぜひご利用下さい。
セイタカシギ 画像
和名:セイタカシギ
学名:Himantopus himantopus
※画像をクリックすると大きな画像が見られます。
沖縄県 豊見城【2009.12.19】
図鑑には、セイタカシギが掲載されています。ぜひご利用下さい。
今の季節、ナンテン(南天)が赤い果実を付けていますね。日本では、よく庭に植えられる木です。それは、縁起が良い木とされるからです。
ナンテンという名は、「難を転ずる」に通じます。このため、鬼門【きもん】や裏鬼門【うらきもん】に植えられます。鬼門や裏鬼門とは、縁起が悪いといわれた方角です。
「縁起が悪い方角」などというのは迷信です。けれども、ナンテンの縁起が良いとされたのには、語呂合わせ以外に多少の根拠があります。
ナンテンには、薬効成分があります。葉や果実を漢方薬に使うことがあります。薬になる植物を「縁起が良い」とするのは当然ですね。
なぜ、ナンテンには、薬効成分があるのでしょうか? まさか、ヒトに利用されることを見越して、薬効成分が生まれたわけではないでしょう。
一つの仮説として「鳥に、あまりたくさん食べられないようにするため」というものがあります。これには、説明が必要ですね。
ナンテンの赤い果実は、鳥を惹きつけます。ナンテンは、果実を鳥に食べてもらうことによって、種子をばらまきます。でも、いっぺんにたくさん食べられると、都合が悪いことがあります。少しずつ、あちこちにばらまいてもらうことが、できません。
ナンテンにしてみれば、あちこちに種子を落としてもらったほうが、生息地を広げることになります。そうするには、少しずつ食べてもらったほうがいいわけです。
薬は食べ過ぎれば毒になります。例えば、ナンテンの果実をたくさん食べた鳥が、おなかを壊したら? 次からは、その鳥はナンテンの果実を食べようとしないでしょう。空腹に耐えかねた時だけ、少し食べるはずです。
ナンテンの果実がなるのは、野鳥にとって食べ物が少ない季節です。たいていの野鳥は、少しずつ、ナンテンの果実を食べざるを得ないのではないでしょうか。
これは、まだ仮説に過ぎません。しかし、ある程度の説得力がありますね。ナンテンは、鳥を利用するつもりが、ヒトに利用されることになったのでしょうか。
図鑑には、ナンテンが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、赤い果実を付ける植物を取り上げています。これらの植物は、鳥に果実を食べてもらうように進化した、といわれます。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
生垣のスター、サンゴジュ(珊瑚樹)(2009/10/12)
八十年越しの純愛? アオキ(青木)(2008/02/04)
扉【とびら】に挿すトベラの木(2007/01/29)
などです。
ムネアカタヒバリ 画像
和名:ムネアカタヒバリ
学名:Anthus cervinus
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沖縄県 沖縄市【2009.05.08】
図鑑には、ムネアカタヒバリが掲載されています。ぜひご利用下さい。
キアシシギ 画像
和名:キアシシギ
学名:Heteroscelus brevipes
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沖縄県 豊見城【2009.09.04】
図鑑には、キアシシギが掲載されています。ぜひご利用下さい。
昆虫の中でもチョウは、多くの人に好まれますね。美しい種が多いからでしょう。チョウの学名はそれを反映しています。伝説の美女の名が付いたものが多いです。
以前、「学名は、必ずラテン語で付けられる」とお話ししましたね(学名と標準和名とは、違う? 同じ?(2009/08/07))。ラテン語は、古代ローマで使われた言語です。そのため、学名に登場する人物名は、ローマ神話のものが多いです。ローマ神話の基になった、ギリシャ神話の人物名もよく使われます。実例をいくつか挙げてみましょう。
スジグロシロチョウというチョウがいます。日本全国で見られる平凡なチョウです。このチョウの学名は、Pieris meleteといいます。melete(メレテー)とは、ギリシャ神話の女神の名です。芸術の女神、ムーサたちの一員だったと伝わります。
クロヒカゲというチョウもいます。この種の学名は、Lethe dianaです。diana(ディアナ)とは、ローマ神話の月の女神の名です。ディアナは、狩猟の女神でもあります。勇ましくて、美しい女神さまです。
ジャノメチョウ、または、ナミジャノメという種名のチョウがいます。この種の学名は、Minois dryasです。dryas(ドリュアス)とは、ギリシャ神話に登場する「樹木の妖精」のことです。命名者はこの種に、「妖精」のイメージを感じたのでしょうか。
イチモンジチョウは学名を、Limenitis camilla、または、Ladoga camillaといいます。camilla(カミラ)とは、ローマ神話に登場する女狩人の名です。メタブスという王の娘でした。王女さまですね。女神ディアナに仕え、ディアナと似た勇ましい女性でした。
コミスジというチョウもいます。この種の学名は、Neptis sapphoです。sappho(サッポー)とは、古代ギリシャに実在した女性の名です。生前から、著名な詩人でした。ロマンティックな恋愛詩を残しています。
中には、「こんな地味なチョウに、なぜこんな名が?」というものもあります。命名の理由は、必ずしも明らかではありません。実物のチョウと、学名とを見比べて、想像の翼を広げてみましょう。隠れた美しさを、発見できるかも知れません。
図鑑には、スジグロシロチョウ、クロヒカゲ(ナミジャノメ)、ジャノメチョウ/a>、イチモンジチョウ、コミスジが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、ラテン語の学名で、美女の名が付いた生き物を取り上げています。また、今回、学名を取り上げたチョウを、扱った記事もあります。学名について、説明した記事もあります。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
一つの種に、複数の学名は、あり?(2009/08/24)
学名の正しい読み方は?(2009/08/19)
学名で分類がわかるって、本当?(2009/08/17)
モンシロチョウ(紋白蝶)は、日本にいなかった?(2008/04/04)
クラゲと付いてもクラゲでない? ツノクラゲ(2006/07/29)
などです。
チュウサギ 画像
和名:チュウサギ
学名:Egretta intermedia
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沖縄県 豊見城【2009.10.23】
図鑑には、チュウサギが掲載されています。ぜひご利用下さい。
バン 画像
和名:バン
学名:Gallinula chloropus
※画像をクリックすると大きな画像が見られます。
沖縄県 豊見城【2009.12.19】
図鑑には、バンが掲載されています。ぜひご利用下さい。
キリギリスやコオロギの声は、すっかり聞こえない季節になりました。みな、卵を残して、死に絶えてしまったようです。親の昆虫は、どこにもいないのでしょうか?
確かに、日本のバッタ目【もく】の昆虫には、卵で冬を越すものが多いです。けれども、中には、成虫で冬を越す種もいます。
とはいえ、冬にキリギリスやバッタを見ることなんて、まずありませんね。彼らは、どこで、どうしているのでしょう? 落ち葉の下などに、じっと隠れています。
成虫で冬越しをする中で、有名なのは、クビキリギスとツチイナゴです。クビキリギスは、バッタ目のキリギリス科に属します。ツチイナゴは、バッタ目のイナゴ科に属します。
同じバッタ目でも、クビキリギスとツチイナゴとは、さほど近縁ではありません。なのに、生活サイクルは似ています。夏に卵から孵化【ふか】し、秋に成虫になります。そして、成虫で冬を越します。春になってから、交尾や産卵を行ないます。
クビキリギスやツチイナゴ以外にも、成虫で冬を越すものがいます。トゲヒシバッタ、ハラヒシバッタ、ハネナガヒシバッタ、ノミバッタなどです。
前記のうち、トゲヒシバッタ、ハラヒシバッタ、ハネナガヒシバッタは、バッタ目のヒシバッタ科に属します。ノミバッタは、バッタ目のノミバッタ科に属します。
ヒシバッタ科には、成虫で冬を越す種が多いです。が、すべてのヒシバッタ科が、そうするわけではありません。近縁でも、生活サイクルが同じとは、限らないのですね。
越冬形態が決まっていない(らしい)種もいます。例えば、ハラヒシバッタは、幼虫で越冬する場合と、成虫で越冬する場合とがあるようです。どういう条件でそうなるのかは、わかっていません。この種の生態には、他にも、不明なことが多いです。
分類がどうあれ、成虫で越冬するバッタやキリギリスには、共通する要素があります。成虫の体色が、茶色っぽいことです。ただし、体色には、個体差があります。クビキリギスのように、かなりの割合で、緑色の個体が出る種もあります。
茶色の体色は、冬の風景に合わせているのでしょう。生きる工夫ですね。
図鑑には、成虫で越冬するビキリギス、ケラ、ツチイナゴ、トゲヒシバッタ、ハラヒシバッタ、ノミバッタが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、バッタやキリギリスの仲間を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
便所コオロギ? いえ、カマドウマです(2009/02/06)
キリギリスは草食か肉食か?(2006/06/30)
一文無しどころか万能昆虫のオケラ(2006/03/24)
などです。
今回は、日本の誇る珍しい鳥を紹介しましょう。ノグチゲラです。
ノグチゲラは、世界のうち、日本の沖縄本島の北部にしか分布しません。日本の固有種です。沖縄県の県鳥になっています。キツツキの一種です。
そもそも、分布域が狭いため個体数がとても少ないです。少し古いデータですが、一九九二年の調査では、百五十三羽(!)しか確認できなったそうです。
なぜ、ノグチゲラは、こんなに狭い範囲にしか分布しないのでしょう? 空を飛べるのだから、他の地域へも飛んでいけばいいのに、と思いますよね。
狭い範囲にしかいないのには、いくつかの理由があります。一つは、彼らが繁殖できる条件を満たすのが難しいことです。
ノグチゲラの繁殖には、大木が必要です。彼らは、大木に巣穴を掘って、繁殖するからです。少なくとも、樹齢三十年以上の常緑樹が必要だといわれます。
今では、そのような大木がある地域は少ないです。人間が、伐採してしまったからです。木材を利用したり、道路を作ったりするために、たくさんの木が伐られました。
私は、木の伐採などの人間の開発を、すべて否定しようとは思いません。けれども、もう少し、自然の資源を大切にする視点が必要だろうと考えます。
人間の開発が進む前から、ノグチゲラは、あまり広く分布していませんでした。これは、ノグチゲラの分類と関係があるのでは、といわれます。ノグチゲラは、キツツキの中でも、特殊な種なのです。他のキツツキから、隔離された種といえます。
じつは、ノグチゲラの分類についてははっきり決まっていません。キツツキ目【もく】に属することは確かです。しかし、どの科に属するのかには議論があります。
日本の他のキツツキは、みな、キツツキ目キツツキ科に属します。ノグチゲラも、暫定的に、キツツキ目キツツキ科に入れられることが多いです。
おそらく、ノグチゲラは、早い時期に、他のキツツキから分かれて、進化したのでしょう。キツツキ類の進化を探るうえでも、貴重な種です。
図鑑には、ノグチゲラ/a>が掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、キツツキの仲間を取り上げています。また、南西諸島に分布する貴重な鳥類も取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
街中のキツツキ? コゲラ(2009/01/12)
ヤンバルクイナは絶滅寸前?(2006/10/02)
鵺【ぬえ】の正体はトラツグミ(2006/08/04) ※たいへん希少なオオトラツグミも取り上げています。
などです。
あけましておめでとうございます。日本のお正月には、松などの縁起の良い植物が飾られます。今回は、縁起の良い植物の中でちょっと変わったものを紹介しましょう。
イケマという植物があります。北海道から九州まで、日本の各地に分布する野草です。白く細かい花が夏に咲きます。つる草です。外見には、目立つところはありません。
この草は、アイヌの人たちにとって、神聖な植物とされます。昔はイケマを使って、病気を追い出す儀式や悪い夢を祓【はら】う儀式を行なったそうです。
今でも、イケマのお守りを作ることがあると聞きます。イケマには、ゴボウのような太い根があります。これを短く切り、削って、首飾りなどにするそうです。
イケマとは変わった語感ですね。漢字では、生馬、活馬などと書かれます。これらの漢字は当て字です。イケマという名は、アイヌ語名をそのまま取っています。アイヌ語名が、正式な日本語の種名(標準和名)になっています。
アイヌ語の「イケマ」を直訳すると「それの足」という意味です。「それ」とは、神さまを遠回しに呼ぶ言い方です。つまり、イケマは「神さまの足」です。この草が、尊ばれていたことがわかりますね。(イケマには、他のアイヌ語名もあります)
なぜ、イケマは神聖な植物とされたのでしょう? この植物の根をかじると、独特の臭【にお】いがあるからです。この臭いを、魔物が嫌うと信じられました。昔の日本人も、臭うイワシの頭などを魔除けにしましたね。それと同じ発想です。
イケマは、薬草として使われることもあります。これも、神聖な植物とされた理由でしょう。イケマの薬効については、はっきり解明されていません。
伝説の中のことですが、イケマは一種の魔法にも使われました。霧が深い時、イケマの根を噛んで、ふっふっと吹けば、霧が晴れたと伝わります。『ハリー・ポッター』の世界みたいですね。アイヌの人たちの、豊かな物語世界を感じます。
目立たない草に、価値を認めたのは、自然への観察眼が鋭いからでしょう。アイヌのような少数民族の知恵には、学ぶところがあると思います。
図鑑には、イケマが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、縁起が良いとされる植物を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
サカキ(榊)は神さまの木?(2008/12/22)
センリョウとマンリョウはどう違う?(2007/01/08)
羽根突きの羽根の原点? ツクバネ(2006/01/04)
などです。