2011年6月アーカイブ
日本の南西諸島には、珍しい生き物がたくさんいますね。今回は、その中の一種を取り上げてみましょう。ナミエガエルです。アカガエル科に属するカエルです。
ナミエガエルは、世界中で、日本の沖縄本島にしか、分布していません。しかも、沖縄本島の中でも、分布域が限られています。大宜味村【おおぎみそん】など、北部の一部でしか見られません。かつては、もう少し南の、名護市周辺でも見られたそうです。
残念ながら、ナミエガエルの分布域は、だんだん狭くなっているのですね。放っておいたら、彼らは、絶滅してしまうでしょう。そうなる前に、手を打ちたいですね。
ナミエガエルは、単に、「数が少ないから貴重だ」というわけではありません。日本の動物相を考えるうえで、重要な鍵となる生き物です。彼らは、「中国大陸や、台湾に分布するカエルと、つながりが強い」とわかってきました。
以前、ナミエガエルは、「アカガエル科のアカガエル属に属する」とされていました。これは、ニホンアカガエル―日本の本土に分布します―などと、まったく同じ分類です。
ところが、最近では、「ナミエガエルの分類は、違うのではないか」という意見が、有力になってきました。アカガエル科の中の、クールガエル属だという意見です。
クールガエル属のカエルは、台湾、中国大陸、インドシナ半島などに、広く分布します。つまり、東南アジアに広がっているグループです。もし、ナミエガエルがクールガエル属だとすれば、彼らのルーツは、東南アジア方面にある可能性が高いです。
クールガエル属の分類については、現在、検討されている最中です。これまで、一種だと思われてきたものが、複数の種に分割されそうな事態も起きています。
そんな状態ですので、ナミエガエルが、クールガエル属のどの種と近縁なのかは、わかっていません。彼らのルーツがどこにあって、日本の南西諸島まで、どのように分布を広げてきたのかは、これからの研究課題です。
似たことは、日本本土に分布する他種のカエルでも起こっています。日本のカエルは、思われていたより、東南アジアのカエルと、近縁なのかも知れません。
図鑑には、ナミエガエルが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、日本のカエルを取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
カエルツボカビ症は、日本が起源か?(2011/01/31)
カジカガエルは、河の鹿(シカ)?(2009/06/05)
平凡なカエルが危機に? アオガエル(青蛙)たち(2008/05/26)
などです。
お酒が好きな方にとっては、そろそろ、ビールが美味しい季節ですね。初めてビールを飲んだ時、あの苦さに驚いた人は、多いでしょう。
ビールがオオムギから作られることは、皆さん、御存知だと思います。けれども、あの苦味は、オオムギとは違うものによって、付けられます。ホップという植物です。
ホップの正式な日本語名(標準和名)は、セイヨウカラハナソウ(西洋唐花草)といいます。ユーラシア大陸に、広く分布する植物です。日本でも、北海道の一部に自生します。
現在は、野生のセイヨウカラハナソウより、栽培されているもののほうが、ずっと多いでしょう。中世ヨーロッパの時代から、この植物は、ビールの風味づけに使われてきました。日本でも、北海道や東北地方で、栽培されています。
「セイヨウ」カラハナソウがあるなら、カラハナソウ(唐花草)もあるのでしょうか? あります。日本では、カラハナソウのほうが、広く分布します。中部地方以北の山地に、自生します。カラハナソウは、セイヨウカラハナソウの変種です。
近年、セイヨウカラハナソウや、カラハナソウの分類が、変動しています。以前は、クワ科カラハナソウ属に属するとされていました。しかし、最近は、アサ科カラハナソウ属とする説が、強くなっています。
さて、ビールに風味づけをする時には、セイヨウカラハナソウの、どの部分を使うのでしょうか? 俗に、毬花【まりばな】と呼ばれる部分です。花といっても、本当の花ではありません。花が終わった後に付くものです。つまり、果実ですね。
同じセイヨウカラハナソウでも、毬花が付く個体と、付かない個体があります。セイヨウカラハナソウは、雄と雌とが別々の株になるからです。毬花=果実が付くのは、雌の株だけです。このために、栽培されるのは、雌の株ばかりです。
カラハナソウも、雄と雌とが別の株になります。雌の株には、セイヨウカラハナソウの毬花と似た果実が付きます。カラハナソウの「毬花」も、ビールの風味づけに使えるのでしょうか? 使えるとしたら、どんなビールができるのか、気になりますね(笑)
図鑑には、カラハナソウが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、風味づけに使う植物や、お酒に関わる植物を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
ニワトコは、庭の薬箱?(2010/06/23)
イグ・ノーベル賞の、バニラ【Vanilla】の研究とは?(2007/10/18)
三月三日は草餅【くさもち】の節句?(2007/03/02)
お釈迦さまも食べた? レモン(2006/08/21)
などです。
イソギンチャクは、日本の海で、普通に見られる生き物ですね。日本の磯に多いのは、ウメボシイソギンチャクや、ミドリイソギンチャクといった種です。
水中でひらひらしているイソギンチャクは、平和的な生き物に見えます。ところが、そうとは限りません。隣同士のイソギンチャクで、「闘う」ことがあります。
ウメボシイソギンチャクを、例に取ってみましょう。この種は、よく、いくつかの個体が集まって、岩などに付いています。その場合、あまり、隣同士で喧嘩しているようには見えません。実際、平和に共存していることも多いです。
では、「闘う」のは、どんな場合でしょうか? どうやって「闘う」のでしょう?
イソギンチャクが闘うか否かは、彼らの繁殖と関わっています。同じ遺伝子を持つイソギンチャク同士は、闘いません。それは、「自分と同じもの」だからです。
ウメボシイソギンチャクなどの種は、クローン繁殖を行なうことができます。クローンとは、「ある個体と、まったく同じ遺伝子を持つ個体」です。いわば、コピーですね。こういったクローン同士では、闘うことはありません。
闘いになるのは、遺伝子が違う個体同士が、隣になった場合です。互いに、相手を「自分とは違うもの」とみなすからですね。
遺伝子が違うイソギンチャク同士が、隣り合うと、「闘う」ための、特別な器官を発達させます。どんな器官かは、種によって違います。
ウメボシイソギンチャクの場合は、周辺球【しゅうへんきゅう】と呼ばれる器官です。触手の周辺に付く、球状の器官です。ナゲナワイソギンチャクなどの場合は、キャッチ触手という、特別な触手が発達します。普通の触手より、太くて長い触手です。
これらの器官には、相手を突き刺す刺胞【しほう】細胞が、びっしりと付いています。これで、互いに攻撃し合います。たいていは、どちらかがその場から退却して(イソギンチャクは、場所を移動することができます)、闘いが終わります。
平和そうに見えても、イソギンチャクの世界も、大変だとわかりますね。
図鑑には、ウメボシイソギンチャク,ミドリイソギンチャクが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、イソギンチャクの仲間を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
<刺すイソギンチャクがいる?(2010/02/22)
どっちがどっち? スナイソギンチャクと、スナギンチャク(2009/10/05)
管の中の花? ハナギンチャク(2009/04/27)
イソギンチャクは逆さのクラゲ?(2008/04/21)
などです。
ウコン(鬱金)といえば、カレーの主原料になる植物ですね。ターメリックturmericという英語名でも知られます。カレーの黄色い色は、ウコンの根茎の色です。
ウコンとは、ショウガ科ウコン属に属する一種です。古くから、東南アジアやインドで栽培されてきました。もともと野生のウコンは、ないといわれます。栽培されていたものが、野生化したものなら、あります。ウコンは、人間によって作られた栽培植物です。
ウコンの原種は、キョウオウ(姜黄)という種だとされています。キョウオウも、もちろん、ショウガ科ウコン属に属します。インド原産の植物だといわれます。現在は、インドに限らず、熱帯アジアの各地で栽培されています。
ウコンも、原種のキョウオウも、薬や健康食品に使われます。サプリメントやドリンク剤の中に、「春ウコン」や「秋ウコン」という名を、見たことがありませんか? 「春ウコン」とは、キョウオウのことです。「秋ウコン」のほうが、本当のウコンです。
ウコンの近縁種には、ウコンと同じように、何らかの薬効成分があるものが多いです。姿も、互いに似ています。そのために、「○○ウコン」という通称が付いている種が、いくつかあります。前述の、春ウコン=キョウオウなど、その一例です。
他に、例えば、「紫ウコン」、「夏ウコン」などと呼ばれる種があります。これも、植物学で言うウコンではありません。正式な日本語名(標準和名)を、ガジュツという種です。やはり、ショウガ科ウコン属に属します。
このように、「ウコン」の名は、乱用されているふしがあります。名前が似ていても、種が違えば、当然、薬効成分が違います。サプリなどを服用する際は、御注意下さい。
日本では、ウコンの根茎ばかりが注目されがちです。食用や薬用になるからですね。しかし、ウコンの仲間は、花も美しいです。観賞用に栽培されることもあります。
花屋さんの店先で、クルクマという花を見たことがありませんか? ピンクの花びらが、重なって付いています。これは、ウコン属の一種です。日本では観賞用ですが、タイでは、この種の根茎を、カレーに使うそうです。ウコンらしいですね。
図鑑には、ウコンが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、薬効成分がある植物を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
薬にも害にも、メギ(目木)(2010/10/25)
ナンテンの赤い実は、鳥のため?(2010/01/15)
ニンジン(人参)がいっぱい?(2009/09/04)
謎の植物、茱萸【しゅゆ】とは?(2008/09/01)<
毒にも薬にもなるオトギリソウ(2006/06/02
などです。
タイサンボク 画像
和名:タイサンボク
学名:Magnolia grandiflora L.
東京 新宿【2011.05.31】
図鑑には、タイサンボクが掲載されています。ぜひご利用下さい。
海の生き物には、「ウミ○○」という種名のものが、よくありますね。今回は、そのような生き物のグループを紹介しましょう。ウミツバメ(海燕)という鳥です。
ウミツバメとは、ミズナギドリ目【もく】ウミツバメ科に属する種の総称です。単に「ウミツバメ」という種名のものは、いません。みな「○○ウミツバメ」という種名です。
紛らわしいことに、モグリウミツバメ科という、別の科もあります。同じミズナギドリ目【もく】の中です。モグリウミツバメ科の鳥は、日本には分布しません。
日本に分布するウミツバメ科には、ヒメクロウミツバメ、コシジロウミツバメ、ハイイロウミツバメなどの種があります。ヒメクロウミツバメや、コシジロウミツバメは、日本国内で繁殖しています。天然記念物に指定された繁殖地もあります。
ウミ「ツバメ」という名でも、ツバメとウミツバメとは、近縁ではありません。ツバメは、スズメ目【もく】ツバメ科に属する一種です。
ウミツバメと、ツバメとは、さほど似ているように見えません。海の上をすばやく飛ぶ様子を、ツバメに見立てたのでしょうか? けれども、ウミツバメの飛び方には、ツバメとは違う、大きな特徴があります。
ウミツバメの仲間は、脚を垂らして飛びます。ひらひらと、脚がひらめいて見えます。こういう鳥は、珍しいですね。他の科の鳥には、あまり見られません。
ウミツバメの英語名は、この飛び方と関係があるようです。ウミツバメの仲間は、英語で、storm petrelといいます。このpetrelというのは、キリスト教の聖人ペテロに由来するといわれます。聖ペテロには、「湖の水面を歩こうとした」という伝承があります。
ウミツバメの仲間は、脚を垂らしながら、海面すれすれを飛びます。この様子が、「水面を歩く」ように見えることから、聖ペテロの鳥=petrelと付けられたようです。
実際には、ウミツバメは、海面を歩いているわけではありません。
確認されている限りでは、ウミツバメの仲間は、繁殖地が限られていることが多いです。どこの繁殖地も、貴重です。日本の繁殖地も、守りたいですね。
図鑑には、ヒメクロウミツバメが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、海鳥を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
昔は神さまだった? アビ(2010/02/05)
都鳥【みやこどり】の正体は、ユリカモメ?(2009/01/23)
夏の海のカモメ? いえ、アジサシです(2008/08/13)
アホウドリの熱愛度は鳥類一?(2007/02/12)
カモメは冬にしかいない?(2006/10/23)
などです。
近年は、日本でも、ハーブという言葉が一般的になりましたね。ハーブは、「香草」などと呼ばれることもあります。料理に風味を付けたり、化粧品に使われたりする植物です。
ハーブherbという言葉は、英語に由来します。そのためか、ハーブと言えば、すべてヨーロッパ原産のものだと思われているふしがあります。
正確には、日本にも、ハーブと呼べる植物があります。例えば、ヨモギや、ドクダミなどがそうです。ヨモギは、昔から、「体に良い植物」として知られますね。ドクダミも、ドクダミ茶にして、飲んだりします。あれは、ハーブティーの一種といえます。
けれども、普通は、ハーブといえば、「ヨーロッパ原産の香草」を指すようです。ローズマリー、セージ、タイムなどと、横文字名前で呼ばれる植物です。
これらの横文字名前のハーブにも、多くのものには、日本語名があります。ただ、それが知られないだけです。中には、正真正銘、日本産のハーブと呼べるものもあります。
それは、タイムの一種です。正式な日本語名(標準和名)を、イブキジャコウソウ(伊吹麝香草)という種です。シソ科イブキジャコウソウ属に属します。
タイム―英語のつづりはthyme―とは、シソ科イブキジャコウソウ属に属する種の総称です。時間のタイム―英語のつづりはtime―と同じ発音なので、紛らわしいですね。
通常、ハーブのタイムと呼ばれるのは、ヨーロッパ原産のタチジャコウソウという種です。料理用に売られている「タイム」は、大概、この種です。
しかし、イブキジャコウソウを「タイム」と呼んでも、間違いではありません。タチジャコウソウと同じく、良い香りがある植物です。日本の山に自生する種です。
イブキジャコウソウに、とても近縁な植物が、ヨーロッパにも分布します。そちらは、ヨウシュイブキジャコウソウ(洋種伊吹麝香草)といいます。
ヨウシュイブキジャコウソウには、「日本のイブキジャコウソウの亜種である」説と、「日本のイブキジャコウソウとは、別種である」説とがあります。どちらが正しいのかは、まだ、わかっていません。
図鑑には、イブキジャコウソウが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、日本のハーブと言える植物を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
じつは外来種です、キショウブ(2009/04/24)
ドクダミは、なぜ臭【くさ】い?(2008/06/09)
三月三日は草餅【くさもち】の節句?(2007/03/02)※草餅に使うヨモギを取り上げています。
九月九日は菊の節句(2006/09/09)※キクも、ハーブの一種と言えます。
などです。
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ウツギ 画像
和名:ウツギ
学名:Deutzia crenata Siebold & Zucc.
東京 新宿区【2011.05.31】
図鑑には、ウツギが掲載されています。ぜひご利用下さい。
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セイタカシギ 画像
和名:セイタカシギ
学名:Himantopus himantopus
沖縄 豊見城【2011.05.21】
図鑑には、セイタカシギが掲載されています。ぜひご利用下さい。
昆虫図鑑をお持ちの方は、開いてみて下さい。そこに、「○○トゲトゲ」という名の昆虫が、載っているでしょうか? 甲虫の仲間です。
もし、載っていましたら、それは、古い図鑑ですね。現在は、「○○トゲトゲ」という種名のグループは、改名されています。「○○トゲハムシ」という種名になっています。
トゲトゲ改めトゲハムシとは、甲虫目【こうちゅうもく】ハムシ科トゲハムシ亜科に属する種の総称です。ハムシ科の中で、成虫の体に棘【とげ】がある種が多いことから、かつて「トゲトゲ」と呼ばれました。そのものずばりの名前ですね(笑)
「トゲトゲ」が、「トゲハムシ」に改名された事情は、わかりません。おそらく、ハムシ科の中の一グループであることを、わかりやすくしたのでしょう。
トゲハムシ亜科には、棘のない種も存在します。そのような種は、以前は、「トゲナシトゲトゲ」と呼ばれました。現在は、「トゲナシトゲハムシ」になっています。
しかし、「トゲナシトゲトゲ」にせよ、「トゲナシトゲハムシ」にせよ、矛盾した名前ですよね。このため、最近では、「ホソヒラタハムシ」という名も使われます。ホソヒラタハムシ=トゲナシトゲハムシで、「棘のないトゲハムシ亜科のグループ」です。
ところが、ホソヒラタハムシ=トゲナシトゲハムシの中には、棘のある種も存在します。そのような種が発見された時、研究者の間で、「どういう日本語名を付けるのか?」と、話題になったそうです。当時は、まだ、トゲハムシが、トゲトゲと呼ばれていた頃でした。
真っ正直に種名を付ければ、「トゲアリトゲナシトゲトゲ」ですね(笑) この名は、研究者の間で、冗談で使われていたそうです。正式な名ではありません。
結局、トゲアリトゲナシトゲトゲ、あるいは、トゲアリトゲナシトゲハムシという名は、正式には採用されませんでした。矛盾がはなはだしいですし、長過ぎて、覚えにくいからでしょう。この仲間には、正式な日本語名(標準和名)は、付いていないと思います。
現在も、トゲアリトゲナシトゲトゲという種名の昆虫が、実在するかのように言われることがあります。それは、事実ではありません。笑い話としては、面白いですね。
図鑑には、キベリトゲハムシが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、生き物の改名について取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
チョウ(蝶)はチョウ目【もく】? 鱗翅目【りんしもく】?(2008/07/22)
新しい名前で出ています――魚類の改名(2007/02/02)
などです。
河童は、ほぼ、日本全国に伝わる妖怪ですね。恐ろしさと共に、愛嬌のある存在としても知られます。「河童が悪さをして人間に捕まり、河童の薬の作り方を教えて、許された」といった伝説が、各地にあります。
伝説の河童の薬は、たいてい、薬草でもって作られています。中には、現在まで、製法が伝わる薬もあります。河童が使う薬草とは、どんな植物でしょうか?
じつは、東北地方の一部で、「かっぱぐさ」、「かっぱそう」などと呼ばれる草があります。なぜかといえば、「河童の薬に使うから」なのですね。その植物の、正式な日本語名(標準和名)は、イシミカワといいます。
イシミカワとは、変わった種名ですね。この語源は、わかっていません。漢字では、「石見川」と書かれます。けれども、これは当て字ではないかといわれます。
イシミカワは、日本全国に自生します。決して珍しい草ではありません。むしろ、人里に普通にある雑草です。あまり目立つところがないので、意識されることは、ほとんどないでしょう。瑠璃【るり】色の果実だけは、目立ちます。つる状になる草です。
この草は、昔から、薬草として知られます。現在では、下痢止めや利尿薬にされます。ところが、江戸時代には、骨折や切り傷の薬にされたようです。
伝説の「河童の薬」は、大概が、切り傷や打ち身や骨折の薬です。これは、江戸時代のイシミカワの使われ方を、反映しているのでしょう。実際に、イシミカワにそのような薬効があるかどうかは、確認されていません。
「河童の薬」に使われる薬草は、必ずイシミカワであるとは限りません。他の植物の名が挙げられることもあります。そもそも、伝説ですから、あいまいなことも多いです。
用途が違うとはいえ、現在まで薬草とされるからには、それなりに効果があるのでしょう。地味な草なのに、そのような薬効を見抜いた人は、すごいですね。
イシミカワが、「河童の薬」にされた理由は、不明です。昔の人にとっては、イシミカワに、河童と共通する点があったのでしょうか? 面白い謎ですね。
図鑑には、イシミカワが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事でも、河童の伝承と関係する生き物を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
カワウソは、河童【かっぱ】の正体?(2010/08/16)
キュウリは、なぜ「胡瓜」と書く?(2007/08/17)
人魚のミイラが実在する?(2007/04/01)
スッポン(鼈)の故郷はどこ?(2007/02/23)
などです。
二〇一一年は、五月のうちに、梅雨入りしてしまいましたね。雨の日が続くと、憂鬱になりそうです。今回は、そんな憂鬱を吹き飛ばせるイベントを紹介しましょう。
それは、渋谷の東急文化村ザ・ミュージアムで開催中の「ルドゥーテ展」です。屋内でのイベントですから、雨の日でも、大丈夫ですね。
ルドゥーテとは、十八世紀から十九世紀のヨーロッパで活躍した画家です。活躍の舞台は、フランスが主です。植物画を得意にしていました。特に、バラの絵で有名です。
今回の展覧会は、彼の晩年の植物画集『美花選』を中心に取り上げています。
『美花選』は、彼の仕事の集大成といえるものです。ルドゥーテの円熟の技を、味わうことができます。「芸術と科学の融合」とは、まさに、彼の画業を指すのでしょう。
彼の絵は、植物学的な正確さと、芸術的な美しさとが、完璧に融合しています。例えば、普段、芸術に興味がない植物学者が見たとしても、感動できると思います。
では、科学にも芸術にも縁遠い人が、見たとしたら? そういう人でも、その美しさには、心打たれるのではないでしょうか。彼の絵には、それだけの力があります。
ルドゥーテは、ロサ・ケンティフォリアRosa centifoliaという種のバラを、ことのほか愛したようです。展覧会には、このバラの絵が、いくつもあります。幾重にも重なる花弁と、その微妙な色合いを再現した絵を、お楽しみ下さい。
バラ以外の植物の絵も、展示されています。スイセン、パンジー、ユリ、ヒヤシンス、スイートピーなど、会場は、花いっぱいです。花の香りも流されています。二種類のバラの香りを、再現したものです。嗅覚でも楽しめる展覧会です。
素晴らしいのは、描かれた植物の種が、きちんと同定されていることです。これは、簡単なようで、難しいことです。ルドゥーテの存命当時と、現在とでは、名が変わっている種が多いからです。基本をおろそかにしない、良い展覧会ですね。
展示品は、版画がほとんどです。数点、貴重な肉筆画があります。ヴェラム(動物の皮の紙)に描かれたものです。ルドゥーテの細密な筆使いを、御堪能下さい。
図鑑には、園芸品種のバラは載っていませんが、野生種のノイバラ,ハマナスが掲載されています。ぜひご利用下さい。
過去の記事で、バラについて取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
すべてのバラ(薔薇)は雑種?(2006/05/02)
ガクアジサイ 画像
和名:ガクアジサイ
学名:Nycticorax nycticorax
東京 新宿区【2011.05.31】
図鑑には、ガクアジサイが掲載されています。ぜひご利用下さい。