源平の悲劇を秘める、クマガイソウとアツモリソウ

user-pic
0

ico_weather_kumori.gif

 源氏と平家の争いは、日本史の中で、大きな区切りになっていますね。劇的な争いのため、たくさんの逸話が生まれました。動植物の名にも、その影響があります。
 植物の中で、有名なのは、クマガイソウ(熊谷草)と、アツモリソウ(敦盛草)でしょう。どちらも、ラン科アツモリソウ属に属する種です。外見も似ています。花弁の一部が、袋状になった花を咲かせます。この花の形によって、種名が付きました。
 クマガイソウの名は、源氏方の武士、熊谷直実【くまがいなおざね】にちなみます。アツモリソウの名は、平家の武士、平敦盛【たいらのあつもり】にちなみます。
 当時の武士は、鎧冑【よろいかぶと】に、母衣【ほろ】というものを付けて戦うことがありました。背中を覆う幅の広い布です。これを付けて、馬に乗って走ると、大きく膨らんで、袋状になります。これによって、背後からの矢を防ぎました。
 クマガイソウと、アツモリソウは、その花の形が、母衣に似ていると見られたのですね。一方は、母衣を付けた熊谷直実に見立てられました。もう一方は、母衣を付けた平敦盛に見立てられました。数ある武士のうちから、なぜ、この二人なのでしょうか?
 おそらく、それは、この二人に、悲劇的な話が伝えられているからでしょう。
 直実と、敦盛とは、一ノ谷の戦いで、一騎打ちすることになります。勝ったのは、直実のほうでした。当時、敦盛は、直実よりずっと年下で、十代の若者です。
 直実は、我が子と同年代の若者を殺すことをためらいました。けれども、味方の目の前で、敦盛を逃がすことはできません。裏切り者になってしまいます。泣く泣く、直実は、敦盛の首を切りました。この逸話は、能などの題材にもなっています。
 アツモリソウ属の種は、英語でも、花の形にちなんだ名で呼ばれます。英語名の一つは、Venus's slipperといいます。美の神ヴィーナスの履物、という意味です。「ヴィーナスの履物が、森の中に落ちて、このランの花になった」という神話が、伝わっています。
 ヨーロッパの人には、あの花の形が、履物に見えたのでしょう。神話も素敵ですが、日本人にとっては、源平の悲劇のほうが、印象的でしょうね。
図鑑には、クマガイソウなどが掲載されています。ぜひご利用下さい。

過去の記事でも、歴史的な故事や、神話に由来する種名の生き物を取り上げています。よろしければ、以下の記事も御覧下さい。
ヒマワリは、日にしたがって回るか?(2011/08/26)
淀殿草【よどどのくさ】とは、どんな植物?(2011/04/14)
チョウ(蝶)の学名は、美女だらけ?(2010/01/11)
クラゲと付いてもクラゲでない? ツノクラゲ(2006/07/29)
不毛の愛に身をやつす? 水仙(スイセン)(2006/01/06)
などです。

このブログ記事について

このページは、松沢千鶴が2012年6月 1日 07:05に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「アオサギ」です。

次のブログ記事は「ミシシピーアカミミガメ」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。